江戸時代の短編怪談:背中のこぶからシラミが出る奇病の話


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江戸時代の本より

ある男の背中にこぶが出できて腫れあがった.ヨーロッパの名医がシラミがたまる蝨瘤(しつちゅう)という病気であることを見抜き、治療法を教えた.

【出版年】寛文六年(江戸1661年)
【著者】浅井了意
【書名】伽婢子(おとぎぼうこ)
【タイトル】蝨瘤(しつりゅう)

日向の国諸縣という所に商人あり.背に手の掌ばかり熱ありて燃るが如し.廿日ばかりの後に熱冷めて、又痒き事いふ許りなし.漸く腫上り盆をうつぶせたるが如し.大に腫るるに随ひて、猶痛みは少もなく、只痒き事堪難し.、、、

日向の国の諸県(もろかた)というところに商人がいた。

ある日より、背中に手のひらほどの大きさで、熱を持って燃えるような所ができた。20日ばかりたってから熱が冷めて、それからはかゆいこと限りない。段々と腫れ上がって、盆をうつ伏せにしたようである。大きく腫れるにしたがって、痛みは少しも無く、ただかゆいことが耐えられない。
このせいで食事は日に日に進まなくなり、やせ衰えるまま骨と皮とになった。

残るところなく諸々の医者に見せ、内科外科が手を尽くして薬を飲ませたり外から塗り薬を貼ったりしたが、少しも効果が無い。


そのころ南蛮の商人船に、名医として有名なチャクテルスというものが渡ってきて、この病を見て言うには、
「これはまったく世にまれな病だ。そのため世の人の多くは知らない。これは蝨瘤と呼ばれている。
皮肉の間にしらみが湧き出てこの病をいたすのだ。わたしがきっとこれを癒してみせる。」

そうして腫れ物の周りを縛って、その上に薬を塗った。


さて語るには、
「世の人の中には、あるいはその体にしらみが湧き出てきて、一夜のうちに3升5升にいたり、衣服に満ち満ちて血肉を吸い食らわれる。痛みかゆいことは言葉にもならない。
しかしながら病人の身にのみ起こって、他人には取り付き移らない。これはままあることなので、治療の方法は世の医者がこれを知っている。
しかしいまこのしらみは、肉の間に生じて皮より下にある。他の人間はあまり知らない症状だろう。今日の夕べには、必ず効果が出る。」
と言った。


その夜、瘤(こぶ)の先端が破れてしらみの湧き出ること1升ほどもあり、みなしっかりと足を持っている。大きさはごま程で、色が赤く、よく這って歩く。
これからは体も軽く心地も良く思えたが、しらみの出た後に細い穴が一つあって、時々その穴からしらみが出てきた。


チャクテルスは言った、
「この病は世に薬が無い。百年物の梳き櫛(すきぐし)を焼いて灰になし、黄龍水を使って塗りなさい。これより他には治療法は無い。私はこれを少しだけだが持っている。ここで惜しむことも無いだろう。」


そして一さじばかりを取り出して、傷の上に塗ったところ、17日のうちに癒えた。

江戸時代の小説

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