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書かれている事のまとめ
福澤諭吉の本より
- これから成長しようという人が、英雄気取りで物事を好き嫌いするべきではない.
- なんでも爪を出す猫のように、技量を試す機会があれば自分の知恵を出して行くべきである.
- 豊臣秀吉は、草履取りのころは草履取りの知恵、大名のころは大名の知恵を出していったので、天下を取ることができた.

出典
【出版年】1897年[明治30年]
【著者】福澤諭吉
【書名】福翁百話
【タイトル】智恵は小出しにす可し(五十六)
原文の雰囲気は?
智恵は小出しにす可しとは古人の金言にして大造な知恵を一時に現して一時に天下を驚かさんとするよりも朝に夕に物に触れ事に當り遅滞なく之を處理して颯颯と世を渡る可し鼠捕る猫爪隠すと云ふ、隠すは宜けれども生涯隠して鼠を捕らざれば爪なきに等し世間の後進生が動もすれば、、、
原文の現代語訳
「智恵を小出しにすべし」とは古人の格言である。たいそうな智恵をいっぺんにあらわして天下を驚かそうとするよりも、朝に夕べに物事に当たって遅れなくこれを処理し、さっと世を渡るべきである。
「鼠捕る猫爪隠す」と言う。隠すのは良いけれども、生涯隠してネズミをとらなければ、爪が無いのに等しい。
世間でこれからと言う者が、どうかすると英雄・豪傑を気取って人事を気にかけず、愚かと言われても迂闊と評判されても、右から左へ流して自ら高尚を気取り、
「このことは拙者の本領にあらず。その行いは自分のがらにふさわしくない。」と身勝手に好き嫌いする。その有様は、病気の貴公子が飲食するものを選ぶ感情に異ならない。
つまりこれは、これから世の中に進もうという者が、胸の内へ智恵の大きなものを抱いて、
「簡単には使わない、使うならばその時は大いに使って事をなそう」とする考えであろう。しかしどうしたものであろうか、事はやって来るが、事が人を求めない。
自分から進んで事を求めるのでなければ、遂にこれに会うことはないだろう。
ネズミをとる事を願うならば、猫の方より進むべきである。
ネズミからやってきて、猫に触ったという話は聞かない。ただネズミを求めることだけで無く、トンボでも、セミでも、見つけ次第に飛びかかって、日ごろの技量を出すのが猫の本分である。
猫の爪はけして隠すべきでない。
とる物の大小にかかわらず、かりにも技量を試す機会があるならば、これをほうっておかずに功名をあらわすべきである。これを呼んで、爪の小出しというのも良いであろう。
かつての昔、豊太閤(豊臣 秀吉)が木下藤吉と呼ばれた時代からしだい次第に出世したのは、豊臣秀吉公ほどの大きい智恵を持ちながらも、始めは草履取りをし、ついで炭薪奉行、また次いで普請奉行など、段々その智恵を小出しにして、けなげに事をわきまえ、ようやく大名として身を立てた際には大名の智恵を出して、遂に天下をつかんだ際には天下を平らげる智恵を出したということである。
もしも当時の木下藤吉が武家奉公の初めから、英雄豪傑を気取って
「草履取りは拙者の本領にあらず。炭薪奉行はわが身のがらにふさわしくない。」と力んでいたならば、ついには天下も手に入らなかったことだろう。
豊臣秀吉生涯の大業は、智恵の小出しによってなるものと言うべきだろう。福澤諭吉の本