黒田清輝が酒に小便を入れる友達をいさめるエピソード


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長田秋濤本より

明治時代、黒田清輝と晩餐していた著者が、パリのレストランで差別されたと思って、復讐する話.

【出版年】明治35年[1902年]
【著者】長田秋濤[長田忠一]
【書名】洋行奇談 新赤毛布
【タイトル】小便の馳走

ほぼ原文ママ

黒田清輝が、グレーというパリの田舎にひきこんで、絵を描くことに余念がないころであった.
これを訪ねたのは、久米桂一と長田秋濤、兄弟も同様の仲なので朝からあらゆる話をし、季節は夏のころであったから、小川に出て釣り糸を垂れ、あるいは緑が深いところのハンモックに眠って、思う存分遊んだあげく、このグレーの町はずれにある一料理屋に入って一緒に晩餐をした.


料理店の主は、われわれを東洋人と思ったか、非常に冷遇するだけでなく、ここにきている客どもはしきりにこっちを見て、好きにからかったり悪態をついたりする.
短気な秋濤は黙ってはいられず、何かこの客どもをつらい目に会わせてやろうと、腹の中で思っていると、食事も済んでいよいよコーヒーを飲む時になったので、ブランデーを注文した.


おのおの一杯づつを飲んでみたが、水6分ブランデー4分の非常に不味い飲み物である.

秋濤「おい、黒田.いくら人を馬鹿にするったって、こんな物を飲ませるやつがあるものか.」
黒田「でも、ここらのやつはみんなこれをもって満足しているんだ.俺たちに飲ませるばかりでなく、みなあの客どももこれを飲むんだぜ.」
秋濤「うむ、そうか.」
と言って、何事が胸の内に考え出したものと見えニヤリと笑ったが、たちまち手に取ったのはそのブランデーのビン.


秋濤はあたりを見まわしながら、背中を客の方に向けて、それを股に挟み込んだ.
そうして放尿数回、知らぬ顔に元の所へ置きなおした.

黒田「ひどい事をするな、あんまりかわいそうだぜ.」
秋濤「なに、かまうものか.」


果たして給仕の人は、あちらの客がブランデーを頼んでいるからと言って、そのビンを持ち去った.

秋濤「しめたしめた.そらそろそろ芝居が始まる、よく見ていろ.」
と、言い終わらぬうちに、黒田は机をたたいて、
「飲むのむ、飲むわのむわ.」
秋濤は平気な様子で、
「ざまを見やがれ.」

黒田清輝の画集

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