パリで酔った黒田清輝が便器に頭を突っ込む面白エピソード


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長田秋濤の本より

黒田清輝の性格がみえる、パリにいたころのエピソードを黒田清輝の友人の話から

【出版年】明治35年(1902年)
【著者】長田忠一(長田秋濤)
【書名】洋行奇談 新赤毛布

※ほぼ原文まま.わかりづらい箇所のみ改正.

パリ留学中のある夕べ、黒田清輝(くろだきよてる)氏が長田秋濤をつかまえて、多年研究をしている霊魂不死の立派な議論を持ってきた.ぺらぺらと話すことおおよそ数時間、眠りをこらえて耳を傾けている秋濤もついにまいって、何かにかこつけてようやくその苦難を逃れるを得たが、ぜひ復讐しなければならないという思いは止まなかったのであった.

これより数日たって晩餐の後、二人は暖炉をかこんで余念もなく雑談をしていたが、秋濤がふと思い出し、「この機会を失うべからず.」というつもりで、今度は秋濤が多年熟読している古今和歌集の講義を始めだして、いつになったら止めるという様子も見えない.

前に清輝氏は秋濤に自論を拝聴させた義理で、中止を命じるわけにもいかない.
しかたなく苦しみをこらえて、そばのラム酒をクビリクビリと飲んで気をまぎらわしながら、ようやく終わりまで我慢をした.
秋濤は清輝氏がよほどひるんだ様子をみて心は大満足で、久米桂一郎氏と何か用事があったと思うが、外出した.

だいたい2、3時間もたったころ、久米氏と秋濤はかえって来たが、清輝氏の影が見えない.
「久米君.やつもとうとう降参して、どこかへ逃走したわい」と話し合ううち、何の気も付かず久米氏が雪隠(便所)に入ると、一個の黒い物が腰かけに両ひじを載せてうつむきながら、雪隠の穴へ頭を投げ込んでうなっている

「おい、秋濤.誰か雪隠に倒れている.早くあかりを持ってこい.」と叫んだので、秋濤はロウソクを持って走って行き、久米氏と二人で調べてみると、黒田である.

二人は驚いて、
「おい、黒田.どうした、息はあるか.」
「ウーン」
「なんだそのざまは.病気か.」
「ウーン」
「おい返事をしないか.」
とゆすり起こせば、清輝氏はしょんぼりと頭をあげながら、
「実は秋濤の講釈を聞くがつらさに、ラムを飲みながら気をまぎらわせたがため、とうとう多量を飲んで苦しくってたまらないのだ.アンモニアを嗅ぐと酔いがさめるというから、この穴へ頭を突っ込んで今思う存分嗅いでいる所だ.死にはせぬから安心しろ.」

黒田清輝の画集

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